ライバル〜高め合った存在に感謝〜 『スターリングラード』
三波春夫が死んだ。「東京五輪音頭」や大阪万博の「世界の国からこんにちは」を歌い、「お客さまは神様です」の名言により、いつの間にか国民的歌手と呼ばれるようになっていた。
私は、子供のころ、三波があまり好きではなかった。三波同様に、浪曲の世界から歌謡界へ転向した歌手に、村田英雄がいる。この二人は、ことごとくライバル視され、不仲説が流れていた。「人生劇場」「王将」「皆の衆」など、豪快な歌いっぷりの男っぽい村田が好きだった。三波を嫌う理由はなかったが、子供心に、村田ファンの私が三波を好きになってはいけない気がしていた。
昭和40年ごろ、ロッテ歌のアルバムという玉置宏司会の番組で、鮮明に記憶に焼きついている場面がある。女王、美空ひばりをステージ正面上方から迎え入れるために、階段上から男性歌手6人が、左右3人ずつ分かれて並び、花道をつくったのである。
最上段に村田と三波、次に橋幸夫と舟木一夫、次に西郷輝彦と三田明。この当時そうそうたる面々が、ひばりを讃(たた)え迎え入れる。この時並んだおのおののライバルに、三波より村田、舟木より橋、西郷より三田となぜか軍配を上げていた。そして同時に、美空ひばりの存在の偉大さとライバル不在の孤独を、漠然と感じたものだった。
ライバルとは、しのぎを削り、対抗意識を燃やしているころは、やはり口をきかなかったり、相手の失敗を望んだり喜んだりということもあるのだろうが、振り返れば、切磋琢磨(せっさたくま)し、互いを高め合うことができた、相手の存在に感謝するものである。
大相撲で、“柏鵬時代”を築いた柏戸と大鵬は、 優勝回数の比較では5対32と、およそライバルと呼べるものではない。しかし、大鵬が最近こんな述懐をしている。「良き目標であり、ライバルであり、友人 であった柏戸さんに出会えて、私は本当に幸せだった。あなたがいたからこそ、大鵬があった」。そこには、ライバルを持てた至福がにじみ出ている。
歌謡界のご三家が、最近ユニットを組んで一緒にコンサートをやるようになったのも、時を経てライバルへの尊敬、感謝の思いが芽生えてのものだろう。
三波春夫の死に最も力を落としているのは、かつて犬猿の仲と言われた村田英雄なのではないだろうか。
私は、どうもライバル物語が好きなようである。オリックスと阪神時代の成績では、段違いのイチローと新庄が、メジャーのマリナーズとメッツでは、ほぼ互角(4月15日現在)の成績を残している。日本では不在だったイチローのライバルに、新庄が成り得るか興味は尽きない。
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映画『スターリングラード』は、第二次大戦で、ドイツ・ロシア両軍合わせて百万人もの死者を出した、半年に及ぶ過酷なスターリングラード戦の中で、400人のドイツ兵を一撃必殺の正確さで殺し、英雄に祭り上げられた伝説のスナイパー、ヴァシリ・ザイツェフに焦点をあてて描かれた大作。
女性兵士との愛や、自らの意思とは無関係に、プロパガンダの道具として英雄に仕立てられる苦悩など、見どころは多い。狙撃手としては、頭抜(ずぬ)けた存在のヴァシリの前に、自分の命を狙う、ドイツのケーニヒ少佐という狙撃の名手が現れる。スナイパーとしての腕は、ヴァシリと互角かそれ以上と思われるものである。これもひとつのライバル物語なのである。
2001年4月20日 (敬称略)