荒井幸博オフィシャルウェブサイト シネマパーソナリティ、映画解説、フリー結婚式司会者。プロデュース、進行等お任せください。

相次ぐメガヒット 〜好評作品へ一気に集中〜


ハリー・ポッターと賢者の石 特別版

Amazonバナー

2002年正月映画のトップを切って、12月1日から公開された「ハリー・ポッターと賢者の石」が、すごい勢いで観客を動員している。全世界で1億部を売りつくした史上最高のベストセラーの映画化とはいえ、宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」を上回るハイペースというのは尋常ではない。

思えば、同じ宮崎監督の「もののけ姫」が大ヒットして、「E・T」(S・スピルバーグ監督)がそれまで十五年間守り続けていた、歴代配給収入記録96億円を凌駕(りょうが)したのは、1997年10月29日のことだった。年々観客動員数が減少の一途をたどる中で、1982年に記録した「E・T」の数字は当時、桁ハズレのものと思われ、これを抜く作品が現れようとは、ゆめゆめ考えもしないことだった。それも日本映画が抜き去ろうとは…。

この記録がいかに驚異的なものであったかは、「もののけ姫」の製作者だった徳間康快(故人)徳間書店社長が、当時、「もののけ姫の大記録は、今世紀中はもちろんのこと、21世紀においても破られない」との発言からも、うかがえる。

「もののけ姫」はその後も順調に数字を伸ばし、配収113億円(興行収入約190億円)に達していたが、この空前絶後と思われていた大記録が、その5ヶ月後には「タイタニック」があっさりと抜き去り、最終的には興行収入を260億円まで伸ばしている。ちなみに、興行収入は客が払った入場料の合計(以下興収)で、配給収入(配収)は、興収から映画館の取り分を差し引き、配給会社が受けとる映画料のこと。

この1997年から1998年にかけての二つの作品のメガヒットは、作品の良さ、監督の知名度・信用、メディア戦略など、さまざまな要因が考えられたが、それらを重ね合わせても到底届くことのない巨大な数字で、ただこの時思ったのは、「タイタニック」に届く作品は現れることはないだろう、ということだけだった。

そして、今年の11月13日、「千と千尋の神隠し」が興行261億円に達し、あっさりと「タイタニック」の記録を抜き去る。これは、宮崎駿ならびにスタジオ・ジブリが、抜き返したと言うべきか。公開から6ヶ月目に突入しているが、いまだに動員中で、300億円突破も時間の問題なのだが、「ハリー・ポッターと賢者の石」が猛追し、「もののけ姫」にとっての「タイタニック」状態なのである。

このメガヒットの分析は他者に譲るが、評判のいいものに一気に集中する現象は、音楽業界でもここ数年の傾向としてある(宇多田ヒカルのアルバム「FirstLove」が1999年に800万枚を売り上げたのが記憶に新しい)。これは、携帯電話やパソコンによるメール通信の急速な普及が、口コミで多方向の復数に広められるという点で、ひと役買っていると思われる。

今年の映画界は、「千と千尋の神隠し」「ハリー・ポッターと賢者の石」に席捲(せっけん)されたかのようだが、高倉健主演の「ホタル」が中高齢者の支持を受け、興収23億円のヒット、三谷幸喜監督「みんなのいえ」が、幅広い層に受け15億円、そして「陰陽師」「バトル・ロワイヤル」「冷静と情熱のあいだ」が、30億円に届かんばかりの大ヒット。若者から熱い支持を受けた、窪塚洋介主演の「GO」、コミカルな青春映画「ウォーター・ボーイズ」を含め、元気な日本映画が目立っていたのも嬉(うれ)しい傾向だった。

そして、吉永小百合主演「千年の恋ひかる源氏物語」が公開。前売り券の売れ行きも良く、製作配給の東映は“興収50億円”と鼻息は荒い。配役等に多少注文をつけたいところだが、吉永小百合の意気込みは買える、絢爛(けんらん)豪華な歴史絵巻だ。

2001年12月21日 (敬称略)