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南陽舞台の米作映画『ARCADIA(アルカディア)』〜楽しみ斎藤作品〜


旅の重さ

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♪お前はだれかと聞かれたら
おれは百姓与次兵エの孫
胸をはって答えたい
生まれた時から鍬(くわ)を持つ♪

これは、南陽市在住の農民シンガー、須貝智郎さん『おじんちゃの鍬』という曲の一節。イントロで雷鳴が轟(とどろ)き、どしゃ降りの雨の音、そして須貝さんの叫びに近い唄(うた)い出しで始まる壮厳なイメージの曲である。もともと須貝さんは、米や果樹を作りそして畜産を営む生活のなかで感じたことを唄い続けているのだが、この『おじんちゃの鍬』は、須貝さんの農民としての誇りを唄い上げた根源的なもの。

そんな須貝さんと1年前に出会いこの歌を聴き、衝撃を受け、そこから“米作り”をテーマにした映画化を思い立ち、走り出したのが斎藤耕一監督だった。

斎藤監督は1929年、東京に生まれ、東京写真工業大学卒業後、東映、日活でスチールカメラマンとして活躍。石原裕次郎北原三枝(石原まき子)が水着姿で抱き合う、あの『狂った果実』(中平康監督・56年)のポスターも斎藤作品である。これがきっかけで、裕次郎の信頼が厚くなり、当時、ほとんどの裕次郎作品のスチールは斎藤監督の手によるもの。

やがて、シナリオ執筆の後『囁きのジョー』(67年)で監督デビュー。その後、活躍の場を松竹に移し『小さなスナック』(68年)『東京―パリ青春の条件』(70年)等の、当時、人気絶頂のGSやご三家主演の歌謡映画を手がける。そして72年、元テンプターズのアイドルで、GS以降の方向性を模索していたショーケンこと萩原健一を主演に起用し、大女優の岸恵子と共演させ、見事に俳優として開花させた『約束』で、演出家としても高い評価を得る。

その後は『旅の重さ』(72年)『津軽じょんがら節』(73年)と、日本の風土に根ざした秀作を立て続けに発表。高橋洋子秋吉久美子織田あきら等新人を萩原同様、世に送り出す。その後、作品に惚(ほ)れ込んだ勝新太郎に請われて、高倉健、勝主演の和製『冒険者たち』ともいえる『無宿(やどなし)』(74年)等、幅広い作品を演出する。

70歳を超えた今も、映画作りへの情熱は些(いささ)かも衰えることなく、よさこいソーランに取り組む若者を描いた『稚内発―学び座』、元暴力団組長が足を洗って、キリスト教の布教活動をする『親分はイエス様』(2001)等、老いて(失礼)ますます盛んである。

その斎藤監督が、元々馴染(なじ)みの深い南陽市を舞台に、三月末からいよいよ映画の撮影に入る。タイトルは『ARCADIA(アルカディア)』。須貝さんを思わせる篤郎(とくお)のもとに、教師、銀行員、スナック経営者等、さまざまな職業経験者たちが都会から流れてきて、共同生活をしながら米作りに励む。自分たちを『大日本生き残り隊』と呼ぶ。

「今は、不況、リストラ、テロ、戦争、大地震と生きていくには困難な時代だが、自分の食い物だけは絶対自分で作る。この日本にどんな天地大異変が起きても、おれたちだけは絶対生き残るぞ」と彼らの鼻息は荒い。そんな彼らの中に、若い金髪のカップルが仲間入り。二人は、アイドルとして売り出しの途上で、職場放棄して逃げ出してきたのだった。女は男の子を身籠(みごも)っていた。果たしてこの当世風若者カップルに米作りができるのか、そしておなかの子供は…。

斎藤監督が目指すのは、啓蒙(けいもう)的作品ではなく、広く楽しんでもらえる娯楽作品。俳優も、週刊文春(2月7日号)で公募するユニークなもの。「映画が好き、自然が好き、そして“お米”が好きな男優、女優さんお待ちしております」の呼びかけに応じて、素晴らしい俳優たちが集まってきた。

公式発表前なのでお知らせできないが、これは楽しみですぞ。

2002年3月15日 (敬称略)