予想裏切る快作ドラマ「ピンポン」 〜適材適所の俳優が好演〜
映画「ピンポン」は、主演が昨年「GO]の演技によって主演男優賞や新人賞を総ナメにした窪塚洋介、そして監督が「タイタニック」の特撮部門VFXに参加した曽利文彦という情報だけが独り歩きしていた。
これらから想像できるのは観客動員のために、映画・TV ドラマ界で人気、実力ともにナンバーワンの若手俳優・窪塚を圧倒的ヒーローに据える。そして、演出家としての実績はないが、CG技術の使い方が巧みな曽利を起用することによって、「少林サッカー」のような荒唐無稽(こうとうむけい)な映像で、窪塚のヒーロー度をより強調するのであろうということだった。
この作品は、そんな私のスレた予想を見事に心地よく裏切ってくれた快作だった。
主人公は卓球の申し子のような高校生ペコこと星野裕。ペコの幼なじみで、同じ卓球部員のスマイルこと月本誠、他校には中国から留学した卓球エリートのチャ イナこと孔文革、強豪校には王者ドラゴンこと風間竜一、ペコとスマイルの幼なじみでいじめっ子だったアクマこと佐久間学がライバルとして配置されている が、決してペコの引き立て役に終わらない。
スマイルは、子供のころいじめられているところをペコに助けられ、卓球もペコに教わったため、ペコにヒーロー願望を抱いている。よって、実力的にはペコを凌 駕(りょうが)しているほどなのに、決してペコに勝とうとはしない、笑わない男。チャイナは中国ジュニアのナショナルチーム代表から落ちて、日本での実績 で名誉回復を図る誇り高き男。
ドラゴンは、インターハイ王者として、常勝を義務づけられたストイックな男。アクマは、才能豊かで子供のころから歯が立たなかったペコを破ることを目標として、血の滲(にじ)むような努力を積み重ね、はい上がってきた男。
ペコは、主人公でありながら、彼らにスポットを当てる狂言回しのようにも思えるほど脇役、敵役の背景や人間性がしっかりと描かれている。観客はいつの間にかこの内の誰かに感情移入してしまう。
俳優が適材適所で、これぞ“配役”といえるもの。ペコとスマイルを指導する大人の夏木マリ、竹中直人もいい。他の卓球部員にも光が当てられており、曽利監督は初メガホンながら素晴らしい演出をした。彼の得意なCG技術は、ハイスピードで展開する卓球の試合のピンポンなど、さり気ない部分に使用。あくまで人間ドラマを生かすためのものだった。
松本大洋の原作、宮藤官九郎の脚本、曽利文彦の演出、そして俳優がチームとして素晴らしい仕事をした映画らしい映画と言える。
それにしても。これだけの作品で、真ん中にいる窪塚洋介という俳優は、やはり只者(ただもの)ではないのだろう。
映画の中で、ペコたちが子供のころから親しんでいるタムラという卓球センターが出てくるが、私が大学生のころの1970年代後半には、こんな場所が身近に あり、よく卓球に汗を流したものである。野球少年だった私は、当初卓球を辛気くさくてダサいスポーツと決めつけていたが、やってみるとこれが病みつきにな り、当時、友人を誘って足繁(しげ)く卓球センターに通ったものである。激しいラリーの応酬の末にスマッシュを決めた快感は、何ものにも変え難いものが あった。
この「ピンポン」は、そんな私の眠っていた卓球への情熱を20数年ぶりに目覚めさせてくれた。「卓球がしたい!」けど、どこで?
2002年8月16日 (敬称略)