ライバルの中井、佐藤 壬生義士伝で迫真演技
"泣かせる作家"浅田次郎原作の『壬生義士伝(みぶぎしでん)』が、同氏原作ものとしては『ラブ・レター』(98年・森崎東監督)、『鉄道員(ぽっぽや)』(99年・降旗康男監督)に次いで映画化された(1月18日公開予定)。
幕末の動乱期、長い飢饉(ききん)によリ盛岡の南部藩の財政は逼迫(ひっぱく)していた。藩きっての文武両道の士と謳(うた)われる吉村貫一郎も下級武士ゆえ妻と二人の子を抱え窮乏生活を強いられていた。そんな折も折、妻は三人目の子を身籠(みごも)る。
貫一郎は家族を養うために脱藩し、剣の腕で稼ぐことを決意、京に上り新撰組に入隊する。名誉を重んじ、死を恐れぬ武士の世界で、貫一郎は守銭奴と蔑(さげす)まれながらも家族のために戦い金銭を得、そして最後まで生き抜こうとした…。
家族への愛、そして義と友情のために、時代や価値観がどう変ろうと、愚直なまでに真っすぐに生きた男の姿は美しい。この貫一郎の生き様は『たそがれ清兵衛』の"その後"かもしれない。
この映画の成功は監督の滝田洋二郎の手腕はもちろんだが、主人公・吉村貫一郎役の中井貴一と、死に場所を求めさすらう、吉村とは水と油の生き方の孤高の新撰組隊士・斎藤一役の佐藤浩市の熱演によるところが大きい。中井貴一と佐藤浩市。
片や"しょうゆ顔の優等生"、もう一方は"ソース顔の翳(かげ)りある不良"という対照的イメージを持たれてきた二人だが共通点は多い。佐田啓二、三國連太郎という名優をそれぞれ父に持つ二世俳優だが、共に父の芸名の姓を名のらずにいる。中井の父は中井が三歳になる直前の1964年8月に交通事故死。佐藤の父は、佐藤が幼いころ、離婚し、家を出る。
生死の違いはあるが、父親の愛情を受けずに育つ。1961年9月18日生まれの中井のデビューは映画『連合艦隊』(1981年)、1960年12月10日生まれの佐藤はNHKドラマ『続続事件』(1980年)で、共に19歳の時。ちなみに、佐田啓二は『不死鳥』(1947年)、三國連太郎は『善魔』(1951年)と共に木下恵介監督作でデビューをし、渋谷実監督の『本日休診』(1952年)で、三國は戦争帰りで精神に異常をきたした勇作役、佐田は純情青年春三役で共演もしている。
そんな父親のDNAを受け継いだ中井と佐藤は順調にキャリアを重ね、最近では、クレジットカードやドリンク剤のCMでコミカルな面も見せている。中井は、前作『竜馬の妻とその夫と愛人』(市川準監督・2002年)で、意外な三枚目ぶりを発揮し、大いに笑わせてくれる。そして佐藤は相米慎二監督の『あ、春』(1998年)で、ごくごく普通の会社員を自然体で演じている。この役などは、イメージでいけば中井のハマリ役である。逆に、佐藤に打ってつけと思えた『マークスの山』(雀洋一監督・1995年)の合田刑事役を中井がクールに演じている。
この俳優としての実力を着実に積み重ねた二人がデビューから20年を過ぎて、初めて共演し、ガッブリと四つに組む。同じような年齢、キャリアで今や日本映画界の"顔"になりつつある二人の個性の違うライバル同士が、互いを認め合い、一つのスクリーンの中で切硅琢磨(せっさたくま)する光景に立ち会えたことが嬉(うれ)しいし、そんな映画が面白くないはずがない。現在大ビツト中の『たそがれ清兵衛』の真田広之も彼らと同世代の1960年10月12日生まれで、スクリーン本格デビューから二十四年とまさに好敵手。
この冬、松竹の本格時代劇で、ライバル三人がしのぎを削る。映画ファンにとってのこの至福の時が長く続いてほしいものだ。
2002年12月20日(敬称略)