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『ボウリング・フォー・コロンバイン』 〜米の銃犯罪、本質に迫る〜


ボウリング・フォー・コロンバイン マイケル・ムーア アポなしBOX

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先月行われたアカデミー授賞式で、最も強烈な印象を残したのは、作品賞はじめ六部門受賞の「シカゴ」でも、主演賞に輝いた俳優でもなく、長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ボウリング・フォー・コロンバイン」マイケル・ムーア監督だった。

彼は、受賞の際、長編ドキュメンタリー部門の他のノミネート作監督たちと共に檀に上り「われわれはノンフィクションが大好きだ。なのに今はイカサマ選挙で決まったイカサマ大統領を頂いて、イカサマの理由で戦争をしている…中略…この戦争には反対だ。恥を知れブッシュ!」と痛烈に大統領を批判。会場はブーイングと拍手が交錯する異様な空気となる。あの“場”にはあまりにもストレート過ぎ、無神経で、一人よがりの印象が強く、この監督に半ば嫌悪感さえ抱いてしまっていた。

ところが、映画を観(み)るとどうしてどうして、なかなか“イイ奴”なのである。4年前の1999年4月20日、米コロラド州のコロンバイン高校で、2人の生徒が銃を乱射し、12人の生徒と1人の教師を殺害した後、自殺するという衝撃的事件が起きる。マイケル・ムーアはこの事件を追及することによって、桁(けた)外れに多い米国の銃犯罪の背景とその本質に迫っていく。

太った丸い顔に丸メガネのひげ面、ボサボサ頭に野球帽をチョコンと載せ、ヨレヨレTシャツにジーンズ姿のムーアが人懐っこい笑顔で取材に行くと警戒心を抱かせないのか、たちまち相手の懐に入り込み、核心を突く。

彼の最大の被害者?は、全米ライフル協会会長として自宅で取材を受けてしまったチャールトン・ヘストンだろう。「十戒」「ベン・ハー」の名優もムーアにあっては形無しで、強がり偉ぶるほど哀れさと失笑を誘う。また、犯罪に対する不安と恐怖、そして犯罪者イコール黒人というようなイメージを煽(あお)り、銃の必要性を植えつけているのがマスメディアなのが浮き彫りになり、根底に流れる経済の論理が見え隠れする。笑い、怒り、そしてちょっぴり背筋が寒くなる映画である。(5月17日からフォーラムで上映)

先日、山形市国際交流プラザで上映された「マニュファクチャリング・コンセントノーム・チョムスキーとメディア」(主催・映画空間)の中で、言語学者で反体制知識人と呼ばれているチョムスキーが、メディアを“大資本に飼い慣らされた犬”とこきおろし、フォーラムで上映された「チョムスキー9・11」でより鋭くアメリカの本質を突く。この2本は、チョムスキー本人とその言論活動を映したものなのだが、彼の鋭い舌鋒(ぜっぽう)とは裏腹のおだやかな人柄がその笑顔ににじむ。

ブッシュ政権にとっては危険人物ともいえるムーアが映画を撮り、チョムスキーが言論活動を続けられるということが“自由の国アメリカ”の面目躍如か。そしてこの時期にこれらの映画を観られるということが、山形が“映画の都”と呼ばれるゆえんか。

余談だが「マニュファクチャリング…」は山形国際ドキュメンタリー映画祭93で正式出品作品として上映され「チョムスキー9・11」の撮影を担当した大津幸四郎さんは、山形国際ドキュメンタリー映画祭89の記録映画「映画の都」(飯塚俊男監督)のカメラマンでもあった。

世界の今が集まり、山形から世界に発信する映画祭も今年で8回目を迎える。

2003年4月18日 (敬称略)