『はみだし刑事情熱系』 〜村川透監督と柴田恭兵〜
23日の『はみだし刑事情熱系』は完結編の前編。8年間のシリーズの歴史をどんな形で幕を引くのか、そしてその幕引き役が、我等が村川透監督というのだから観ないわけには行かない。
そもそも主演の柴田恭兵を、映像の世界に引っ張り込んだのが、誰あろう村川監督だった。当時、ミュージカル劇団‘東京キッドブラザーズ’の看板スターとはいっても、まだマイナーな存在だった恭兵に、光るものを感じとった監督は、劇団主宰者の東由多加(故人)に「あの柴田恭兵を自分の作品に出演させてくれ」と直訴。そして、監督は『最も危険な遊戯』(’78)、『白昼の死角』(’79)等に、小さな役で起用。恭兵はテレビでも『俺たちは天使だ!』、『大追跡』などでスター街道を駆け上がっていく。
’80年代から’90年代に入っても『あぶない刑事』シリーズ(ちなみに、私も’96年の『あぶない刑事・リターンズ』に、ワンシーンながら出演させて戴き、恭兵さんと絡んでいるのです。)、『風の刑事』、『はみ出し刑事』と、その信頼関係は途切れることなく続いているのである。
また、『はみ刑事』で、恭兵の元妻で上司役の風吹ジュンも、村川作品『蘇る金狼』(’79)の体当たり演技で女優開眼した人。『獣たちの熱き眠り』(’81)等にも出演した後の『はみ刑事』での再会だった。
25〜26年の時空を越えて、監督と二人の主演俳優が作り上げる“完結編”にゲストとして招かれたのが、かつて恭兵とは’70年代‘東京キッドブラザーズ’で人気を二分した三浦浩一。恭兵と三浦は、劇団を退団後は、共に売れっ子として活躍していたが、’80年代半ば頃から三浦の人気に翳りが見え始め、最近は俳優としての仕事にはあまり恵まれておらず、妻・純アリスとのテレビショッピングでの空々しい紹介をしている様子が目につく位だった。
その三浦を、恭兵は8年間続いた自分の主演シリーズの掉尾を飾る重要な役で招いた。私はこれを、主演俳優がただ単に、不遇なかつての仲間にいい仕事を与えてやった美談として捉えているわけではない。
あくまで私の憶測だが、恭兵は、ライバルだった三浦の俳優としての価値を誰よりも認めていて、最近の三浦の不遇に納得出来ない思いでいたのではないだろうか。テレビ局の立場からすれば、視聴率を考え、今、売れている俳優を起用したかったはずである。それを、三浦の実力・凄さを知っている恭兵が押し切ったのではと思われる。
役柄も、30数年の時間を超えて、殺人事件の容疑者と刑事という立場で再会した二人。容疑者は精神神経科の医師(三浦)となり、その立場から、その後の高見(恭兵)をずっと注目し続けていたというもの。この役は三浦しかできない、否、三浦こそが相応しいと思えるもので、正に恭兵の慧眼と言える。この二人の共演を最も喜んでいるのは、‘東京キッド…’を主宰し彼等の師匠だった、故・東由多加ではないだろうか。「30日の最終回を刮目して観よ!」
*故・東由多加については、元・妻の柳美里原作の『命』が、’02年に江角マキ子、豊川悦司主演で映画化されている。監督は、公開中の『深呼吸の必要』『天国の本屋〜恋火』の篠原哲雄。
2004年6月23日 (敬称略)