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[No.26]  冨樫 森(しん) 監督 新作映画に取り組む


冨樫森監督
11月4日、日活調布撮影所に、新作映画を撮影中の冨樫森監督を訪ねてきた。

冨樫監督は鶴岡市(旧 藤島町)出身で、3年前に東京でお会いして話を伺い、本欄で(2004年9月14日掲載)取り上げさせてもらったのだが、演出している撮影現場を拝見したことはなかった。

クランクイン前の9月下旬に「今度、新作を撮るんですけど、現場にいらっしゃいませんか」と監督からお誘いの電話を戴き、喜び勇んで出かけて行ったのでした。

撮影中の映画は、『あの空をおぼえてる』。

原作は、米国のジャネット・リー・ケアリーの同名児童文学。
これが、冨樫監督に向いていると思った脚本家山田耕大さんが監督に話し、共鳴した二人が、映画製作再開したばかりのサンダンス・カンパニー古澤寿斗プロデューサーに持ち込んで撮影に漕ぎ着けたもの。

地方の田舎で写真館を営んでいる深沢雅仁は、妻・慶子と、10歳の長男・英治、そして6歳の長女・絵里奈と笑い声が絶えない幸せに満ち溢れた暮らしを送っていた。そんな一家に、ある日突然、悲劇が襲う・・・。家族の再生がテーマといえるが、特に父と息子の関係が要(かなめ)となっている。

お邪魔した日は、物語後半の、子供部屋で父親があるものを発見し、妻とともに大切なことに気づかされるという、映画の肝となる場面の撮影でした。

演技始めの掛け声は、「ヨォーイ、アクション」や「スタート」そして止めは「カット」と言う監督が殆どだが、冨樫監督は「ヨォーイ、 ハイッ」で始め「ハイッ」で止め、と至ってシンプル。

冨樫監督は、小学校高学年から中学・高校・大学と一貫して剣道部で汗を流してきたからか、「ヨォーイ」も「ハイッ」も相手に打ち込むときの掛け声のように気合が入り、セット中に鳴り響く。竹野内豊さんは、この掛け声を「気持ちを吹き込むというか監督の魂や想いが伝わる」と言い、水野美紀さんはこの声も「現場の空気を作っている」と言う。

二人は、リハーサルから真剣そのもの。本番も角度を変え、カットを割って何度も撮るのだが、そのたび毎に目頭を熱くし、涙を溢れさせているのには感心してしまった。
監督は、俳優に、表情や動作、台詞、心持ちなどについて丁寧に説明、アドバイスをする。納得いくまで撮影する。信頼関係があってこそできることなのだろう。

あの空を覚えてる 竹野内さんは、監督を「すごく真っすぐな方で、すごく強い想いを秘めている方。多く言葉を交わさなくても、どういうものを求めているのかが分かりやすい。お芝居を大切にして下さる。役者の個性を見抜いて、足りないと思ったら、もう少しもう少しと決して妥協はしない。きっと納得いく演技はOKを出されたものしかないんだと思います。」

そして、水野さんは、「監督は素晴らしい凄いエネルギーを持っていて、現場に立っている時の求心力が強い。しっかりとしたプランを持ち、芝居を見る目が厳しく確か。子役に対しても子ども扱いしないで大人の俳優に対するように演出しているけど、決して子供が萎縮する空気を作らない。厳しいことを言っているんだけれども監督から言われると駄目を出されているのではなく、前向きな提案をされている感じになる。」

二人の、監督に寄せる信頼感と尊敬の想いが伺えました。

富樫監督の作品の登場人物が個性豊かに光っているのは、この辺りが大きいのだろう。

残念ながら、この日は子役の撮影が無かったので広田亮平君、吉田里琴ちゃんに会うことはできませんでしたが、監督、竹野内さん、水野さんが異口同音に「二人とも素晴らしい」と言い、岐阜県での撮影初日から自然に四人家族になれたとのこと。

「亮平君は、お兄ちゃんらしく、頑張って耐えている姿は見ているだけで涙が出てくるし、里琴ちゃんは生命力がすごく、彼女がセットに入ってくるだけで3ワット位明るくなる」と水野さんは評する。

今すぐにでも作品を観たい処だが、来年4月26日全国220館一斉公開が決定。
あと5ヶ月、首を長くして待つとしましょう。